2017/02/15

クリスチャン・ネステル・ボヴィーの名言「何もかも失っても、まだ未来だけは残っている」




乙姫の花笠さんによるイラストACからのイラスト 



数学界最高の名誉であるフィールズ賞を受賞した広中平祐氏は、「生きること学ぶこと」という自伝形式の著書の中で、自分の父親に襲いかかった出来事を以下のように回想しています。


敗戦とともに、父が所有していた満鉄と台湾製糖の大量の株が反古同然になり、 経営していた繊維工場も原料が入手できなくなったため、行き詰まった。

さらに転落への追いうちをかけたのは、昭和21年から施行された農地改革である。不在地主の父は、三千五百坪の農地をただ同然の値段で否応なく売却されてしまった。その上に新円切り替えである。

父が営々と築きあげてきた財産は、まさしく泡沫のように消えてしまった。

繊維工場は人手に渡り、家屋も庭地も莫大な財産税を納めるためと、戦後のインフレの嵐の中でまだ稼ぐことを知らぬ子供が十人もいた家族の全員がどうにか生存していくために、次々に切り売りされてしまった。




引用 生きること学ぶこと 広中平祐 集英社文庫


広中氏の父親のように、人は一生のうちに、いつどんな困難に遭遇しないとも限りません。


大東亜戦争に限って言えば、


  • 原爆を落とされた広島や長崎で生き延びた人たち。
  • 空襲で家屋を焼け野原にされた人たち。
  • 激戦地の舞台となった沖縄で生き延びた人たち。
  • 戦地から着の身着ののまま引き揚げて来た人たち。


家や仕事を失ったこれらの人たちは、敗戦の混乱で機能不全に陥った国家に頼ることもできず、独力でゼロから一つずつ新たに積み上げていき、今日の日本の繁栄を築きました。





「焼き場に立つ少年」

報道写真家ジョー・オダネル撮影
(1945年長崎の爆心地にて)

米国著作権法107条 Fair Use


この有名な一枚の写真は、まさに戦後の焼け野原からの復興を目指した当時の日本人を象徴しています。


口を真一文字に閉じ、手の指を真っ直ぐ伸ばして直立する少年が背負う幼子は、「焼き場に立つ少年」の題名から分かるように、亡くなっています。


ここに一つの言葉があります。


他のすべてを失ったとしても まだ未来だけは残っている

When all else is lost, the future still remains.



アメリカの弁護士 クリスチャン・ネステル・ボビー


戦時中でなくとも、この現代で全てを失ったと感じることもあるでしょう。


  • 災害で全てを破壊された人たち
  • 肉親を失った人たち
  • 不妊治療に失敗した人たち
  • 冤罪に巻き込まれ、裁判でも判決が覆らなかった人たち
  • 他人に騙されて財産をすべて失った人たち
  • 信頼している人に裏切られた人たち


このようなことがあっても、決して絶望せず、上を向き、今できることをコツコツと始め、時間を味方につけ、一歩ずつ着実に歩んでいくことを、この言葉から学び取りたいものです。

力強い言葉を拠り所に生きていくことは、絶望しない一つの方法ですが、楽観主義を学ぶことも絶望しない一つの方法です。

しかし、どんなに力強い言葉を拠り所にしていても、どんなに楽観主義でいても、待ち受けている未来が絶望的な状況の時もあります。

それは、関ヶ原の戦いで東軍に捕われた石田三成のような時です。

それでもなお、処刑直前の三成が、身体に悪いからと柿を食べるのを断ったように、最後の最後まで決して悲観せず、最善を尽くし、未来に望みを繋ぎたいものです。

未来に期待するのではなく、たった今この瞬間に全力を賭けるべきだと思いますが、


何もかも失っても まだ未来だけは残っている


という言葉を初めて聞いたとき、心を鷲掴みにされるほど感動したので、今回紹介させていただきました。

絶望の中に見る一筋の光のような名言です。

なおこの言葉の出典を、歌手のボブ・ディランとか、作家のロバート・ゴダードとしている人もいますが、実際はクリスチャン・ネステル・ボヴィーのようです。

またアメリカの発明家で、ロケットの父と呼ばれたロバート・ゴダードも似た言葉を残しています。


すべてを失ったときでも、まだ未来だけは残っていることを覚えておきなさい

Just remember, when you think all is lost, the future remains.



ロバート・ハッチングズ・ゴダード(Robert Hutchings Goddard)


生前のゴダードは、世界初の液体燃料ロケットを開発製造したにもかかわらず、周囲からは変人扱いされ、その業績を認められませんでした。

それこそ一筋縄ではいかなかったであろう当時の研究から産まれた実感のこもった言葉であり、この文句を頼りに己の研究に邁進したのでしょう。

そんなゴダードに喝采を送るとともに、この言葉を我々自身も血肉化し、人生の指針としたいものです。



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